'."\n" ?> ゲーセンで出会った不思議な子の話 その2:長編の話

ゲーセンで出会った不思議な子の話 その2


その1

76 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 05:59:23.16 ID:WuLtuWlB0

彼女「就職はね…ちっちゃいデザイン会社で…」
俺「うわ、デザイナーじゃないですか…!すごいですね!」

彼女は笑った。
彼女「ありがとう~そんな風に言ってくれるのは君だけだな。」
彼女「でもなぁ、もどりたいなあ。君くらいの時に」

俺「どうしたんですか?何か夢があったんですか…?」

今思えば、ずけずけと聞きすぎだった。

彼女は泣いてしまっていた。
彼女「辛いなあ…君といると。名前なんてんだっけ?」
俺「富澤です…。」(仮名、サンドウィッチマンに似てるので)
彼女「そっか、わたしは吹石っていうんだ…」(吹石一恵に似てるので)

77 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 06:02:44.07 ID:WuLtuWlB0

彼女「君は絵が好きなの?」
俺「好きです…下手ですがそればっかやってます…」

彼女「あははは、そうなんだ。」

そうするとまた泣いてしまって、
彼女「ごめんね…もうゲーセンにも来れないかも。」
そう言って夜の街に飛び出していった。

94 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 14:56:55.38 ID:WuLtuWlB0

俺は混乱した。何か悪いこと言ったのか?
もう何がなんだか分からなくなってた。

無心で追いかけた。
「待ってください!どうしたんですか!?」

95 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:00:13.56 ID:WuLtuWlB0

彼女は立ち止まって黙った。
俺はどうしようか困った。
なんて声をかけたらいいか分からなかった。

目の前で、ベレー帽を被って手や服を絵の具で汚した女の子が泣いている。
なんてヘンテコな状況なんだろう。

瞬間、俺はこんな事を口にした。
「そ、そうだ…これから画材屋さんにでも行きませんか?」

96 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:02:49.52 ID:WuLtuWlB0

なんでこんなことを言ったのか分からないが、
何か状況を変えようと思ってとっさに出た一言だった。

彼女「え…?ほんとに?」
俺「はい、行きましょう、近場でどこか…」

彼女の反応は思ったよりよかった。
そして幾分ノリ気であった。
彼女「じゃあさ、近くにあるから行こう。ちょっと電車のるけど。」

97 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:07:32.31 ID:WuLtuWlB0

駅に向かって、黙って切符を買う。
「JRって高いのかな?」
などと彼女は言っていた気がする。

ホームで電車を待ってた。
時間帯もあって、駅はなかなかの雑踏だった。
無言で過ごす。さっきまで泣いていたのに、彼女は思ったよりケロッとしていた。

俺はよく分からない展開に動揺して、緊張して、足が震えてたかもしれない。
彼女の方を見ると、笑ってVサインをしたりしておどける。

俺「なんなんですかソレ」
彼女「わからんなw」

98 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:11:12.14 ID:WuLtuWlB0

この道中も、彼女は決して自分のことを語ろうとはしなかった。
俺がひたすら話していた気がする。
「美大生なんて本当に憧れる」とか「絵が好きで上手くなりたい」とか
俺が終始しゃべっていた。

そのたびにニコニコするだけで、それがなんだか可愛く見えた。
でもなぜ泣いてしまったのか、そのことには触れられなかった。

99 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:17:48.68 ID:WuLtuWlB0

画材屋に着く。
すると彼女は途端にテンションが上がって、あ~どうしよう張りキャン買ってこうかな~あでも筆も…
などと顔をキラキラさせて俺を連れ回して買い物を始めた。

俺はリラックスしている彼女になら何か聞いても大丈夫だと踏んだ。
俺「楽しそうですね。」
彼女「ここ来るとやっぱね~テンション上がるよ。」
俺「でもこの前、もう絵描いてないって言ってませんでしたっけ…?」

101 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:24:26.21 ID:WuLtuWlB0

彼女「いや、それはね…」
俺「気を悪くしたらごめんなさい…でもなにか知りたくて。今日もいきなり泣かれてしまって…」

俺はもう彼女のことで頭が一杯だったから、知りたかった。
そして少しでも彼女の力になりたいと思っていた。

俺「なんで、いつもゲーセンに来てるんですか?何か思い入れが?」
彼女「思い出があるんだよ、だから」

分からない。

102 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 15:25:13.49 ID:OPjA9tnB0

意味がわかると怖い話か

103 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 15:26:28.52 ID:k/QC1PhU0

わかった。彼女は幽霊なんだな!!

104 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:29:15.37 ID:WuLtuWlB0

もう分からないことだらけだった。
一体なんなんだろうこの人は。
そもそもただでさえこんな女の子がいつも一人でゲーセンに来ていること自体不思議で仕方なかった。

俺「思い出って…何なんですか?」
彼女「わたしの絵、見る?」

そういえば見たことなかった。
俺はそこで彼女のケータイから彼女の絵を見せてもらった。

107 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:33:14.65 ID:WuLtuWlB0

そこにはポップンやら音ゲのキャラクタ、あるいは格ゲーキャラクタの絵があった。

とても可愛らしい絵柄で、おれは素直にいいなあ、と思った。
絵柄的には誰だろう…chancoさん辺りに近かったと思う。

俺「わああ!すごい上手いですね!」

彼女は満面の笑みになった。
彼女「ありがとう。」
彼女「私はただ本当にアーケードのゲームが大好きなだけ。」

しかしそれでもまだ合点がいかないことだらけだった。
なんで泣いていたのかがどうしても気になった。

108 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:37:41.80 ID:WuLtuWlB0

俺「でも、本当に上手いですね。大好きな絵柄です!」
俺「やっぱりそっち関係を本当は目指していたんですか?」

彼女「ま…ね」
俺「そうなんですか…でもこれだけ上手かったらきっとまたチャンスありますよ!俺は絶対応援しますよ!」

彼女「いや、もうそういうのは描かないって決めたことだから」
俺「? どうしてですか?」

115 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:43:09.08 ID:WuLtuWlB0

彼女「君は若くて、絵が大好きで、きっといい子なんだろうね。」
俺「え、はい、あの…」

彼女「ダメなんだよ、気安くそう優しい事言っちゃ。」

いつになく真剣な顔になったので、怖かった。
目が真っ赤になっていた。
彼女「君はダメだ…。ダメダメだ。」

ダメダメって言われたのが妙に覚えている。

彼女「じゃあね、今日はここまでで。付き合ってくれてありがとう。」
帰り際にコピックマルチライナーを俺に手渡して、そそくさと去っていった。

俺は呆然として、追いかけることもできなかった。

117 :忍法帖【Lv=22,xxxPT】: 2012/01/15(日) 15:46:07.02 ID:nhA7ui6A0

コピックマルチライナーってなんだよ

119 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:47:35.39 ID:WuLtuWlB0

>>117
ごめん。画材のことだ。イラスト描いたりするペンだよ。

120 :忍法帖【Lv=22,xxxPT】: 2012/01/15(日) 15:52:25.61 ID:nhA7ui6A0

>>119
なるほど、ありがとう

118 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:46:49.14 ID:WuLtuWlB0

何も分からなかった。
俺は完全に彼女にすべてを持っていかれてしまった。

しばらくメシもろくに食えなくなって、もらったマルチライナーで落書きとかしてた。

寝ても覚めても完全に彼女のことしか思い浮かばなくなっていた。
でも連絡先すら知らなかった。

もはやゲーセンに行くということだけが、彼女と俺を繋ぎとめる唯一の方法だった。

121 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:55:57.08 ID:WuLtuWlB0

俺は悶々としながらゲーセンに通い続けた。
あの調子じゃ、次会っても何を話したらいいか分からない。

俺がいつものように学校帰りにゲーセンに行くと、彼女はいた。
LOVの筐体に座っている。
肩を叩いて、会釈する。
彼女「あ、きた~!ねえねえローカル対戦しよーよ!」
彼女は会うなりゲームに誘ってきた。

ゲーセンありがたい。ゲームを介せば彼女の機嫌も良いみたいだった。

122 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 15:59:03.02 ID:WuLtuWlB0

ゲーセンというものが、俺らの仲をつなぎ止めてくれている。
そんな風に感じた。

ひと通りゲームをして、喫煙所Or自販機に行って格ゲー談義して、楽しかった。
楽しくて気が合うからこそ、俺は彼女のことを知りたかった。

ゲーセンにいるうちなら、何か話してくれるかもしれない。
俺はそう思っていた。
初対面に会った時も、ゲーセンだからあれだけ意気投合できた。

124 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:02:06.69 ID:WuLtuWlB0

ひととおりゲームをして、また自販前に来た。
ゲームが心地よく鳴り響いている。

俺「あの…吹石さんはどうして絵を描き始めたんですか?」
彼女「わたし?んー…お兄の影響かなぁ」
彼女はポロッとこぼした。
ここで俺は初めて彼女にとってのお兄さんの存在を知った。

125 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 16:03:29.98 ID:9rmCJsO90

ものっそい嫌な予感…!

126 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:07:19.96 ID:WuLtuWlB0

ゲーセンという、お互いに好きな場所だから、ついつい気を許して口をついて出たんだろう。

彼女はハッとした顔だった。
俺「お兄さん…ですか?」
彼女はかぶっていたキャスケット帽を深々とかぶり直した。

俺「なんですかソレ…」
彼女は笑う。

彼女「わたしには兄がいるんだよ…。小中学生の時はよく一緒にゲーセンに来たよ。」
彼女「だからわたしはゲーセンが好きになったんだけどね。」

俺「お兄さんもゲーセン好きだったんですね?」
彼女「うんw好きなんてもんじゃなかったよ。」

127 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 16:08:02.53 ID:vEZCC0gL0

淡い感じで好きだ

132 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:13:59.38 ID:WuLtuWlB0

彼女「お兄は絵が大好きだったから、みんなにやってもらえるアーケードゲームを作りたいって、いつも言ってた。」
俺「それはすごいですね…」
彼女「でもね。」
彼女「ウチは厳しいから…お兄は美大に行きたかったんだけど、親に旧帝大以上の大学じゃないとダメだ、って言われて…」
彼女「東大に行ったの」
俺「え、すごいじゃないですか!」

133 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 16:16:22.08 ID:RtZ4bQJy0

その子のスペックをもう少しでよいので希望です!
身長とか、服装とか…スカート?

135 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:21:47.40 ID:WuLtuWlB0

>>133
キャスケット帽被ってました。服装は…ちょっとタイトなジャケットにホットパンツでタイツ…だったような
ちょっと変わった服装だったけど、女の子らしかったと思います

140 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 16:27:08.84 ID:Znema7ww0

>>135
イイ!

134 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:18:19.04 ID:WuLtuWlB0

彼女「お兄は長男だったから…父さんたちも必死だったんだろうな…」
俺はなんだかこの話をこのまま聞いていていいのか、いたたまれなくなった。

彼女「お兄は大学に行ったら好きなように創作活動できると思ってたんだろうね…」
彼女「大学に入ったら、今度は親に官僚か弁護士になるように勉強しろとこっぴどく言われて…」

俺「弁護士…司法試験ですか…」奇しくも俺も法学部だったので反応した。

141 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:28:28.06 ID:WuLtuWlB0

彼女「お兄ね…司法試験全然ダメだった。」
彼女「時々、絵が描きたいって本音を漏らすこともあった。
私だけが女で下の子だから、好きなように美大に行かせてもらえたんだよ。」

俺は何も言えずにいた。
というか、普段まったく自分のことを話さない彼女が、こんなに話してくれているのに、半ば驚いた。

彼女「司法試験に落ち続けるうちに…お兄はまいっちゃったんだよね。
心を病んじゃって、今入院してるんだ…もう絵を描くどころじゃない。」

なんて言ったらいいか分からなかった。いや、なんて言えば良かったの?w
彼女はそんな重大なことをあっさり笑って言うもんだから、俺は動揺した。

142 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 16:29:43.70 ID:+t3I5efm0

これは何も言えないな

153 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:44:34.59 ID:WuLtuWlB0

彼女「だから、わたしは…ゲーム会社に入ってゲームを作りたかったんだ。
私は好きなことをやって、自由にさせてもらった。だから絶対、夢を叶えようって…
でも、ダメだったよ。思い出にすがってるようじゃ、ダメなんだね。」

俺「ダメだったんですか…」
俺「でも、まだまだチャンスはありますよ…!」

彼女は、「そうだね」とは言わなかった。
だた、笑うだけだった。
その笑いが、何を意味するのか、まだ俺には分からなかった。

155 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:50:58.67 ID:WuLtuWlB0

その日、会うのは何回目か分からなかったけど、初めて連絡先を交換した。

色々合点がいった。
なんでゲーセンにいたかも。
最初の印象より、ずっとしっかりした子だった。
もちろん意味不明なところもたくさんあったけど、それが可愛かった。

美大浪人したらしく、俺より2つ3つ上だったんだけど、背は小さかった。
でもその背中がすごく大きく感じた。

俺は嬉しくなった。彼女が話してくれた。
これからはもっと彼女の力になれるかもしれない。
彼女のために、なんでもするくらいの心持ちだった。
彼女の抱えてたものは大きくてビックリしたけど、何より話してくれたことが嬉しかった。

156 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:54:49.41 ID:WuLtuWlB0

すっかり浮かれていた。
次はいつ会えるだろう?

それから俺はまたしばらくゲーセンに通い続けた。ひたすら。
でもしばらく通っても、彼女はまったくゲーセンに現れなくなった。
メールは割と返ってきていた。

なんだろう?気になった。
土日も来ない。まだ仕事も始まっていないはずだった。

どうしてゲーセン来ないの?とメールで聞いても
「近いうちに行こうかな~」という趣旨のメールが返ってくるだけだった。

157 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:57:21.12 ID:WuLtuWlB0

それからまたしばらく経って、俺は若干凹んでいた。勝手に。
彼女はもしかしたら彼氏もいたかもしれないし、俺は多分忘れられた…と。

ゲーセンではいつも楽しくて、メシを食べることも多かったから、向こうも俺のことを必要としていると思っていた。

突然、不思議なメールが来た。

「そろそろ、大きな勝負が待っています。勝ってみせるよ。」

160 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 16:58:59.19 ID:WuLtuWlB0

勝負?なんのことだろう?
就職試験?それともイラストレーターデビュー?
俺は楽観的に考えていた。

「勝負?なにそれ?気になる」的なメールを返した。
するととんでもない内容のメールが返ってきた。

161 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 17:00:26.99 ID:hiNsX/wJ0

ゴクリ・・・

162 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 17:01:08.33 ID:WuLtuWlB0

「今、入院しています。○○病院のどこどこ。良かったら会いにきてね、わたしのファンさん」
みたいなメールが来ていた。

卒倒しそうになった。
驚きと同時に怒りも湧いた。
すべてを話してくれたと思ったのに…どうして黙っていたんだろう。

165 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 17:02:17.99 ID:+t3I5efm0

嘘だろ…

166 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/15(日) 17:04:01.26 ID:WuLtuWlB0

俺は大学をさぼってすぐに会いに行った。必死だった。

俺「どうしたの?すごく心配してたんですよ!!」

「若年性の卵巣がん。」
彼女はニコッと笑って俺が着くやいなやそう言い放った。

俺はことの重大さにすぐ気付いた。
俺はばあちゃんを卵巣がんで亡くしてる。
進行性のとても早い癌として知られていて、ばあちゃんもものの半年で…
だったのを思い出した。

168 :名も無き被検体774号+: 2012/01/15(日) 17:05:54.20 ID:hiNsX/wJ0

あぁ・・・