'."\n" ?> ゲーセンで出会った不思議な子の話 その7:長編の話

ゲーセンで出会った不思議な子の話 その7


その6

183 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:17:35.11 ID:WJObiXhX0

家に着くと、昨日とは変わって母さん一人が夕飯の支度をしていた。

俺「ただいま」
彼女「お邪魔します」
母「はいおかえりー」

歌いすぎた俺たちは些か声が枯れ気味だった。
妹は、俺たちが帰ってくるなり部屋からとびだしてきた。

187 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:24:19.73 ID:WJObiXhX0

妹「お二方帰ってまいりましたか!アツアツなことで!」
彼女「ただいま帰りました!留守のあいだ異常はなかったか?」
妹「異常なしですww」

この二人、もうすっかり気が合うようだった。

すると妹は「見せたいもんがあるんです」と彼女だけを部屋に連れてった。
俺はなんのことか察しがついた。
妹は服飾の専門でよく自作で衣装を作ってたから、それを見せたいんだろう。
俺に見せたって仕方ないし、同年代の女の子に見てほしいんだろう。

193 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:31:15.58 ID:WJObiXhX0

夕飯の時、彼女は興奮していた。
彼女「妹さんすごいですね!可愛い衣装たくさん作ってて…
わたしは服飾は専攻してないけどとても感激でした!」
妹は終始ドヤ顔だった。

妹と彼女は本当に気が合うようで、それだけで彼女を実家に連れてきて良かったなあって思えた。

母さんは母さんで、
「うちの子になっちゃいなよ、娘増えたほうが嬉しいわぁ、富澤とチェンジで」
とか言い出すし、まあ男俺一人だから大変だったけど、それはそれで楽しかった。

197 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:40:56.79 ID:WJObiXhX0

晩御飯も一段落して部屋に戻ると、彼女は俺に聞いてきた。

彼女「今日は富澤の育った場所見れて楽しかったなぁ」
俺「いいとこだったでしょー」

彼女「ねえねえ、わたしが育った場所も見てみたい?」

それは意外な一言だった。今まで決して過去を語ろうとしなかった彼女だから、俺はゲーセンで会う以前のことはあまり聞こうともしていなかった。

俺「正直、すごく見に行きたい。」
彼女「じゃ、さ。明日は朝早く向こう戻って、色々巡ってみよう。行ったり来たりの渡り鳥だね~!」
彼女は手を広げて羽ばたくような仕草をしてみせる。

そういうことになった。
さすがに強行日程すぎないか?と思いつつ俺は彼女に早く寝て休むように促した。

199 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 18:42:01.28 ID:Yec/Xh0E0

かわいい渡り鳥だね

205 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:52:07.78 ID:WJObiXhX0

俺たちは無駄に早起きした。
日曜だったので母さんも妹もまだ起きてはいなかった。

すると彼女は、「アイアンシェフの出番だー!」などと言い出し、
俺は「きたれ、アイアンシェフ!」というコントを朝からやらされた。

彼女はふざけながらも朝ごはんを作る、といって張り切り、二人で一緒に朝ごはんを作った。
ベーコンを焼いてスクランブルエッグを作って、野菜を切るくらいのことだったが、俺は楽しくて仕方なかった。

208 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 18:58:23.93 ID:WJObiXhX0

一緒に住んでいたり、夫婦の人は、ずっとこういう日が続くのか、いいなぁ、と俺は思っていた。

二人でバカ笑いしながら騒がしくご飯を作っていたから、妹も母さんも起きてきた。
今日は俺たち二人で作る、と言い張って妹はテレビの前、母さんは洗濯を始めた。

ああ、普通の生活だなってしみじみ思った。

211 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:12:37.51 ID:WJObiXhX0

朝ごはんを食べながら俺は不肖にも「これは彼女の手料理…」と思いながら食べていた。

朝ごはんを食べたらすぐ家を出る旨を母さんと妹に伝えると「さみしいねー」「もっといればいいじゃないー」と言われた。
そうしたいのは山々だよ、と俺は悔しかった。
もっと時間があればもっとゆっくりしていた。

この時ばかりは彼女と俺もただただ顔を見合わせるしかなかった。

214 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 19:18:08.35 ID:fzJGwJ/w0

手料理いいな

215 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:19:26.60 ID:WJObiXhX0

荷物をまとめて、家を出る。

妹が車を出してくれた。
車に乗って、坂をくだる。妹が「また来てくださいねー」と言うと、彼女がぼそっと「また来れるかな…」と言ったのが心を突いた。
何もかも、次があるのか分からない。

彼女自身も、その不安と悔しさと戦っていたのかもしれない。

216 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 19:27:21.15 ID:QFz9wBNO0

>>215
彼女の一言に
胸がむ…

221 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:32:21.84 ID:WJObiXhX0

また、特急列車に乗る。2時間ほどの旅。
そこから在来線で1時間ほど。
それほど長い旅ではないのだが、
特急を降りた辺りで彼女の様子がおかしかったことには気付いた。

口数が減っていたのだ。
彼女は、自分から弱音を言うことは無い人だから、俺は嫌な予感がしていた。

在来線になると人が多くて座れなくなる。
俺は、途中駅で彼女を下ろした。彼女は「なんで?」という顔をしていたが、
とりあえずベンチに座らせた。

俺「ねえ、大丈夫?様子が変だよ。無理してない?」

224 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:37:56.84 ID:WJObiXhX0

彼女「どうして?平気だよ?」
俺「いい?一番大切なのは何よりも体なんだよ?少しでも何かあったら言って」

彼女は悔しそうに言った。
彼女「あのね…少しだけ吐き気がするの…でも本当に少し。でも言ったら絶対心配かけちゃうと思って…」

俺はやられた、と思った。大袈裟かもしれないが一気に血の気の引いた俺は、「歩ける?」と聞きつつも彼女を揺らさないように強引におんぶして、改札をぬけた。

彼女は必死で「大丈夫だよ!電車に乗ろ!」と言っていたが、俺は電車は座れないし人も多いからもうダメだ、と思っていた

225 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:43:01.93 ID:WJObiXhX0

彼女を傷つけたらだめ、少しでも無理させたらダメ、そう決めていた俺は必死だった。
もし何かあったら全てオレのせいだ、そう思っていた。

駅を降りて、必死でタクシーを止める。
さすがの彼女も諦めて、「ごめんね…ごめんね…」と繰り返していた。

俺は必死だった。
俺「急いで、〇〇方面に向かってください!」彼女の自宅だった。

227 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 19:48:12.96 ID:x28GwwOWO

>>225
GJ過ぎる

228 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:48:38.09 ID:WJObiXhX0

この時、タクシーの運転手がすごく良い人だったのが印象的だった。
彼女のことを車酔いか酒酔いをした人だと思っていたのか、水飲む?といってペットボトルくれたり、近道しますよ、といって渋滞の抜け道をしてくれたり。

初老の白髪のじいちゃんだったのだが、動転して入ってきた俺をなだめ、落ち着かせてくれた。
終始Jリーグの話をしていて、お若い方だった。

彼女はタクシーの中で涙目だった。俺はずっと肩を抱いていた。
窓を開けて車で走っているウチに、彼女の口数も増えてきて俺は安心していた。

232 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 19:58:35.96 ID:WJObiXhX0

彼女の家につく頃には、彼女にはだいぶ笑顔がもどってきていた。
俺は胸をなでおろした。

彼女はフラフラ歩き出した。
俺「こら、そんなに焦って歩いちゃダメだよ」
彼女「ここが、我が家です!でもどうせ呼ぶつもりだったから」
と笑って玄関先に立ってみせた。

俺は彼女の父さんと母さんに事情を話した。逐一電話報告もしていたが、叱られることも重々覚悟の上だった。
しかし、ここまで一緒に来てくれてありがとう、と言われた。
とても、申し訳ないことをしてしまった気持ちになった。

234 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:06:36.62 ID:WJObiXhX0

大事をとって、彼女は少し横になって休ませることにした。
「富澤とわたしの母校に行くのー!」と言ってきかなかったが、一番大事なのは体調だ。決まってる。
みんなで説得して、なんとか彼女を寝かせた。
そのかわりに俺は彼女が目覚めるまで家にいて欲しいと言われ、家にいることになった。

しばらく彼女が部屋で寝ているのを見守っていたが、居間におりて彼女のお父さんとお母さんと話した。

239 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:15:22.69 ID:WJObiXhX0

空気は重かった。あまり話すことも見当たらないんだ…
とりあえず俺は、今日はすいません、と真剣に謝った。

母「気にしないでね。」
父「君はいつもいつも、娘の病室にやってきてくれるね。
君が来てくれるから、あの子はいつも本当に楽しくやっていられる。
謝りたいのは、ろくに何もできないこっちだよ。」

俺は、黙っていた。何を言っていいかまったく思いつかなかった。

母「あの子、本当にいつもいつも富澤君のこと話してくれるのよ。
  富澤くん、私にもよくマメに連絡くれるでしょ。本当にありがとうね」

真面目な話はこれくらいだった。そのあとは、それを忘れたいかのようにテレビを見ながら、他愛もない世間話をしていたと思う。

241 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 20:20:38.26 ID:C2P/Fvvo0

好きな人が好きになってくれるなんて、それだけでステキな奇跡ですよね。

245 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:27:22.80 ID:WJObiXhX0

しばらくすると彼女が起きてきて、俺を部屋に手招きした。
「もう、すっかり良くなったから。部屋で話そ」と言われた。

彼女「今日はごめんね…。行きたいところたくさんあったのに…」
俺「それは仕方ないよ。でも吹石がなんともなくて本当に良かった。それだけで俺は嬉しいよ。
  辛い時は、辛いって言わなきゃだめだからね?」

249 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:36:21.51 ID:WJObiXhX0

そうすると彼女は揚々と歌い出した。
「愛とはあなたのためだととかいったらー!うたがわれるけどーがんばっちゃうもんねー!!」
そう歌ってにっこり笑った。それはイエモンのLOVe LOVe showだった。

俺「頑張っちゃうんだw」
彼女「うん、頑張る。」
彼女「だからさ、今日は聞いて欲しいんだ。」

250 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 20:38:14.56 ID:ttuEMZtR0

選曲がいちいちグッとくるんだよっ、ばか!

255 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:45:27.80 ID:WJObiXhX0

彼女「今日はわたしの育った場所まわれなかったから、私の昔話をしますーぱちぱち」
俺「きかせてもらおうじゃないか」
俺も若干の悪ノリをしていた。

彼女「結論から言ってわたし中学行けてないです」
そう言って彼女は苦笑いをこぼした。
俺は驚いたけど、「何かあったんだ?」と優しく尋ねた。

261 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:52:49.72 ID:WJObiXhX0

俺は、彼女の話に耳を傾けることにした。

彼女「わたし、中学の時体弱かったんだーだからね、しょっちゅう学校休んでたんだー。」
彼女「本当にね、すぐ体壊しちゃうから。でもさ、あまりに頻繁に学校休んでるうちに、ういちゃってさー」
彼女は笑いながら話しているけど、辛そうだった。

263 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 20:58:03.04 ID:WJObiXhX0

彼女「学校行くとさー。誰もまわりにいなくなってて…昼ぐらいから行くと、給食泥棒とか言われちゃってさw」

俺は黙って彼女の目を見続けた。

彼女「いじめられてたとか、あんまり言いたくないんだけどさ。ある日行ったらわたしの机ごとなくなってたんだー。それで、あれ?学校くるんだ?とか言わちゃって。」

彼女「それから中学には行けなくなっちゃった。」

269 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 21:04:02.79 ID:WJObiXhX0

彼女「その頃なんだなー。友達もいなくてさー。お兄と一緒にゲーセン行くのだけが本当に楽しかったよ。
アケゲーの人とのつながりとか、楽しさの共有とか、わたしは肌で感じた。」

俺はぐっと涙をこらえていた。

彼女「そこでね、本当に色んな人に会えたんだよ。」
彼女「わたしね、高校からは私立に行ったんだけど」

彼女「てて子、覚えてる?あの子とも本当に偶然ゲーセンで会ったの」

271 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 21:13:30.08 ID:WJObiXhX0

彼女「中学の時ゲーセンで出くわしてね、当時って、まだそんなに若い女の子とかゲーセンにほとんどいなかったの。だからお互いに気になって話したら意気投合して」

俺は話していることが信じられなかった。彼女にとってゲーセンという存在がここまで大きいなんて、にわかには信じられなかった。

彼女「そしたらてて子は中高一貫の私立に通ってる子で、少し遠いけど私はその高校に行こうって決心した。」

273 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 21:17:20.83 ID:WJObiXhX0

彼女「当時はね、うちの近くにもゲーセンがあったんだ。っていうか、今よりずっとずっとあった。今は少なくなったよ。」
彼女「わたしはそこが好きだった。店長さんも優しくて、常連さんもたくさんいた。たまにヤンキーとかもいたけど、大して気にならなかった。てて子もね、うちの近くに住んでたんだ。」

俺「今、そのゲーセンは…?」
彼女「ないよ。潰れちゃった。」
彼女は苦笑いした。

277 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 21:27:46.84 ID:riEPO2cM0

本当に今ある日常が大切に思える

289 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 21:53:56.33 ID:rU5512OJ0

俺にまだこんな綺麗な涙が出るとは思わなかったよ
みんなもそうだろう!?なぁ!

290 :名も無き被検体774号+: 2012/01/17(火) 21:58:35.22 ID:lA2XLBU50

>>289
読んでると自分の汚れ具合に泣けてくるぜ

301 :1 ◆WiJOfOqXmc: 2012/01/17(火) 22:23:11.30 ID:WJObiXhX0

彼女「それからは、高校は女子高だったけどとても楽しかったよ。」
彼女「いつもわたしがばかなこと言ってたけどw」

彼女の持ち前の明るさやアホなところはそこに由来するのかなあと思った。

彼女「だからね、わたしこんなにゲーセンが好きなんだー。なんて言ったらいいか分からないけど。」

彼女は笑いながら話す。
今まで彼女がどうしてここまでゲーセンに入れ込むのか不思議に思うこともあった。
それが解けた気がした。