親(死去)が懇意にしていた近所のアパートの大家さんは昔からの知り合いでもう相当の老御夫妻。

以前に
「不動産屋に任せているとは言えもう自分達では管理しきれないし蓄えも充分有るので、『私』さんに買い取ってもらえないか」
という申し出が有り、今では私がそのアパートの大家。
リフォーム等もされていてそんなに古くはないのだが、『親御さんには本当に誠実にして頂いたから』という理由で破格で譲って頂いた。

私は自宅を改装して自営業をしており、アパートの管理は前からの不動産屋に丸投げ。
アパートの間取りは夫婦と小さい子供一人が暮らすのに最適程度の広さで、家賃も相場より安めに設定していたのでほぼ満室に。

一緒に仕事をしている弟がそのアパートに入居しているんだが、最近、様子が少しおかしいという話が出て来た。
部屋のドアノブの周辺に擦られた跡が有り、侵入を試みた形跡が有る、と。
鍵穴も何かを突っ込んだ形跡が有り、どうすっぺやぁなんて言ってたんだが。

中は弟の趣味の為に常時録画している上に仕事関係の物は一切持ち込ませていないし、弟は趣味以外には全然お金をかけていないので弟も私もあんまり緊迫感は無し。
店子の家で起きたなら即対応するけど自分のところだし、という感じ。

でも、店子に被害が出たらとか考えるとそれでも放置は流石に出来ないので、鍵もこの際全戸新しくしようかなんて言っていた時に、弟が或る事に気が付いた。
弟「あ……そう言えば、この騒ぎが起きる少し前に、引越しの挨拶に来た人いたなぁ、そこの家と俺の部屋離れてるのに何でここ迄って思ったけど」

聞いてみると、一階に越して来た中年夫婦(Ａとします)が挨拶に来て、弟の部屋が201号室だったとしたら、Ａ夫妻の部屋は対角線上の105号室だった、みたいな状態だったのでちょっと妙だと思っていたらしい。
で、挨拶した時に途中からＡ嫁の方が部屋の中をガン見していたから要注意かもなと思っていたとか何とか。
それから、暫く後の話。

不動産屋を通して鍵の交換を全戸に通知したんだが、その数日後に不動産屋からウチに連絡が。

不「105号室のＡさんの奥さんが201号室に侵入しようとして引き攣け起こして救急車呼んだとか警察から・・・自分もちょっとよく分からないんですけど」
と、何じゃそりゃと思って現場に向かってみたら、弟の部屋の玄関に1/1サイズのジェイソンが設置されていた。

御丁寧にちゃんとチェンーソーも振り翳している。
あー、そりゃ引き攣けも起こすよね、いきなりこんなものに出迎えられたら、みたいな。



で、Ａ夫とＡ嫁、警察からの話を総合すると、以下の様な話に。

・嫁は手癖が悪く、以前住んでいた隣の市でも職場で盗難騒ぎを起こし、居られなくなったので引っ越して来た
・夫もＤＱＮで妻の盗みは公認だった
・懲りてなかったのでここでも盗みに入ろうとし、アパートの全戸に挨拶をして回り、住んでいる人間の様子等から金目の物が有るか判断しようとした
・ウチの部屋に入ったのは、挨拶に行った時に玄関や廊下に鉱物コレクションが飾って有り、宝石だと思い売れば相当な金額になると判断した(弟は鉱物オタ、部屋に飾りきれないものが廊下や玄関に進出していた)
・他の家もこの後やるつもりだった
・Ａ夫妻には中学生の息子がおり、前日にこちらはゲーセンで破壊行為＆恐喝で補導されていた

等々。

被害は鍵だけで済んだ上にＡ嫁はぶっ倒れた際に頭を強打し何針か縫っていて、鍵はどうせ交換するつもりだったしという事で被害届けは出さず、警察から厳重注意＆退去してもらうという形で話を収めた。
正直、人手が足りない状況で訴訟抱えたくなかったし、被害が他の店子だったワケでもないので。

で、それから暫くして私に電話がかかって来た。
「Ａさんに依頼された弁護士です、先日のトラブルによりＡさんの奥さんはPTSDと診断されました。慰謝料を請求します。つきましては×日迄にＡさんの口座に××万円振り込んで下さい。支払いが無い場合は訴えます。」
って、携帯電話から。

もうこの時点でｐｇｒだったんだが、何とか我慢して電話を切り、『弁護士事務所から携帯ってどんだけｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ』と、警察の友人(所轄外の勤務)に電話して二人して思う存分ｐｇｒし、じゃあ実際に来て頂こうじゃないのという話に。

私や弟の自宅に入れる気は無かったので、弁護士(笑)にこちらから電話をし、近所のファミレスで話をする事に。
私、弟、何故かやって来た警察知人の三人で超絶ｗｋｔｋでファミレスに乗り込む。
待ち合わせ時間の一時間前とか張り切り過ぎ。

で、時間を少し過ぎてから、普段着のＡ夫妻とスーツを着た御老人がやって来た。
夫妻はこちらとは目も合わせず、Ａ嫁はハンカチで口元を覆い俯いてる。
そんな中でスーツ老人が口を開き、再度弁護士と名乗り携帯電話で告げられた内容を繰り返し

弁「貴方達御夫婦も裁判は避けたいでしょう？慰謝料を支払って和解しましょう。」
とのたもうた。
どうも私と弟を夫婦だと思い込んでるらしい。

その時点で変な方向を向いて肩を震わせ店のフォークで膝をザクザクと刺す勢いだったんだが(主に笑いを堪える的な意味で)、そんな事続けていてもしょうがないので弟が口を開いた。

弟「えーと……ブフォッ！……失礼しました、PTSDを発症されたという事ですが、その診断書を拝見出来ますか？」
弁「診断書ですか？疑うという事ですか？」
弟「いえ、確認の為です。あ、申し遅れましたが私、こういう者です。」
と言って名刺を出し、襟元の弁護士バッジを見せる。

はい、弟は弁護士資格を持っていてうち(自営)の顧問弁護士でもあります。

一瞬動きが止まる相手に考える隙を与えず続ける弟。
弟「弁護士という事ですが……バッジ付けていらっしゃらないですね。所属弁護士会と登録番号をお伺いしても宜しいですか？後、名刺も頂戴出来ますか？」

何か顔色変わってる相手。

弟「資格者という事ですから御存知かとは思いますが、弁護士を詐称すると大変重い罪になりますよ？後、今回の場合は脅迫罪にも該当しますね。依頼人(形式上私)の要求された金額から言っても大変悪質ですし、もし貴方が弁護士ではなかったとしたら貴方もその行為を依頼した人も刑事犯として裁判にかけられ、実刑はまず間違い無いと思いますが、如何ですか？」

途端に向かいの三人ふじこり出して、お前がしろって言ったいやあんたがでもお父さんも乗り気だったじゃないとか罵り合いが。
どうやら自称弁護士とＡ夫妻どちらかが親子の様子。
で、散々ふじこった後ニラニラしていた警察知人に向かって

「あんたは何なんだ！どうせあんた達も詐欺をするつもりなんだろう！」
とか騒ぐから、
「あ、私はこういう者です☆ﾐちょっと詳しく聞かせて欲しいなぁ☆ﾐ」
と言って警察手帳を出して写真を見せるノリノリっぷり。

弁護士と警察官の最強タッグ登場で更に固まる向かい席、一番通路側にいた自称弁護士が逃げようと腰をうかせたので、
「あ、逃げたら更に重くなりますよ。大人しくしていた方がお勤め期間も短くて済みますから☆ﾐ」
と警察知人畳み掛け、そのまま警察署に三人揃ってお持ち帰り(知人から所轄署に引継ぎ)。

それからも色々有りましたが、Ａ一家は無事退去、私や弟や知人はとても楽しかったです。
あと、1/1ジェイソンは結構効果が有るようです。

色々の内容は事件そのものには絡んでないのですが、
・警察知人、仕事仕事でろくに家に帰っていないのにこんな事で遊んでいた事が嫁にバレ〆られる。私も弟も嫁さんから怒られる
・お役目を果たしたジェイソン、バラバラに分解されて粗大ごみに出されるが死体と間違われて通報される
・玄関や廊下に置かれていたコレクションを危機管理の名の下に部屋に移動させる
・途中ガラスケースを倒して割り、弟が足の指の間をざっくりと切り病院逝きに
等です。

事件そのものは弟の知人弁護士に一任しました。
Ａ夫妻の子供は親戚に引き取られたという話です。
そちらから鍵の交換費用を全て負担するという申し出も有ったようなのですが、Ａ子の養育は大変だろうという事を配慮して辞退しました(かなり問題の有る子供のようです)。